毎朝の仕入れが決める、一日だけの献立
福井の港に届く魚介は、季節どころか日によって顔ぶれが変わる。はちまんでは店主自らが市場に出向き、その日もっとも状態のよい魚介と地元の野菜を選び抜くところから仕事が始まります。素材の鮮度や脂の乗りを見ながら刺身にするか焼きに回すかを判断していく過程は、まさに食材との真剣勝負です。北陸の海が持つ力をそのまま皿へ移すために、仕込みの段階から一切の手抜きがありません。
個人的には、メニューが固定されていない緊張感こそこの店の醍醐味だと感じました。来店するたびに並ぶ品書きが違うため、常連客のなかには週に複数回通う人もいるという話を耳にします。出汁の引き方ひとつとっても自家製を貫いており、既製品に頼らない姿勢が料理全体の輪郭をはっきりさせています。家庭の延長では届かない、職人の手仕事でしか出せない味の厚みがここにはあります。
鍋コースから握り寿司まで、選び方は自由
梅5,500円から松9,900円まで3段階の鍋コースに加え、牛しゃぶ3,850円・豚しゃぶ2,750円という単品鍋も用意されています。お造り、天ぷら、焼き物、煮物と和食の基本がひと通り揃い、さらに職人がカウンターで握る寿司まであるため、一軒で和食の幅をまとめて楽しめる構成です。コース仕立てで会食に使う客もいれば、好きな品だけを少しずつ頼んで過ごす客もいて、使い方に決まりはありません。季節が変われば素材も調理法も入れ替わるので、同じ注文をしても前回とは違う表情が返ってきます。
「鍋のあとに寿司を数貫つまむのが定番になっている」という声が目立つのも、品数の幅があるからこそ成り立つ楽しみ方でしょう。コースを選ばなくても、一品料理だけで十分に満足できるボリューム感がある点は見逃せません。和食というと堅い印象を持つ人もいるかもしれませんが、はちまんの空気はもう少しくだけていて、居酒屋感覚で入れる敷居の低さが同居しています。
順化の路地裏、カウンター越しの距離感
福井市順化2丁目、通りから一本入った静かな場所にはちまんは店を構えています。木を基調にした店内は席数を絞っており、隣席との距離がほどよく保たれた空間設計です。カウンターに座れば目の前で魚をさばく手つきや盛り付けの所作がそのまま見え、料理が届くまでの時間すら退屈しません。一人客が多いのも、この距離感が居心地のよさにつながっているからだと感じる利用者も多いようです。
初めて訪れた客でもすぐに肩の力が抜けるのは、過度な装飾を排したシンプルな内装と、店主との自然な会話が生まれやすいカウンターの配置によるところが大きいでしょう。大人数での宴席というよりは、二人や三人でゆっくり語りながら食事をする夜に向いた店です。照明はやや落とされていて、仕事終わりの疲れた目にもやさしい明るさに調整されています。
深夜5時まで開く、夜型のための和食処
営業時間は19時から翌朝5時、ラストオーダーは4時。この時間設定を知って驚く人は少なくないはずです。仕事が遅くなった日でも、二軒目の帰りでも、本格的な和食にありつける場所が福井の繁華街にあるという事実は、夜に動く人たちにとって心強い存在でしょう。仁愛女子高校駅から徒歩約9分、近隣にはコインパーキングもあり、車での来店にも対応しています。
深夜2時を過ぎてから刺身を注文できる和食店は、福井市内でもそう多くありません。終電後に温かい鍋を囲んだという話や、早朝近くに握り寿司で一日を締めたというエピソードが口コミで散見されます。福井城址や柴田神社にも近い順化エリアという立地から、観光で遅くまで動いた旅行者が立ち寄るケースもあるようです。


